ターナーアワード2020 受賞作品発表

ごあいさつ

1990年にスタートしたTURNER AWARDは、若い学生アーティストの第一歩を応援する公募展として今回で31回目を迎えました。
例年とは違う生活様式になった制約の多い状況においても、数多くのご応募をいただきました。改めて感謝を申し上げます。

審査員の、太田圭氏(筑波大学芸術系長)、O JUN氏(美術家 東京藝術大学教授)、山口裕美氏(アートプロデューサー)3名による審査の結果、大矢一穂さんの「mirror」が大賞に選ばれました。大賞を含む22点の受賞作品は、東京を巡回し、多くの方々にアーティストたちの創作にかける想いを感じていただけることと存じます。

これからもTURNER AWARDを通じて、「時代を切り拓く作品」「限りない可能性をもつ作品」「明日の色をつくる作品」と出会えることを楽しみにしております。

最後になりましたが、ご協力並びにご支援をいただきました皆さまに厚く御礼申し上げます。

2021年1月
ターナー色彩株式会社

審査員コメント

  • 山口裕美(アートプロデューサー)

    昨年も感じたのですが、大学生・大学院生の作品に比べると、高校生と専門学校生の作品の方が、勢いがあるように感じました。授業の中での課題制作も含めて、非常に真剣に取り組んでいただいているなあ、と感心しました。おそらく指導役の先生方のおかげと思いますので、心から感謝を申し上げたいです。
    大賞を受賞された大矢一穂さんの作品ですが、仮面を手にした女性の作品で、第一印象として、ペルソナが浮かびました。心理学のユングの概念であるペルソナという言葉は、元来、古典劇において役者が用いた仮面のことですが、ユングは人間の外的側面をペルソナと呼び、その仮面を被ったり、外したりというのは、誰でもが自分自身の心の中を人に見せたくないという心理があるわけで、コロナ禍を経て、私たちの中で急激に変化した生活を想起させる、まさにコンテンポラリーな作品だと思いました。時代の空気を表現することはアーティストにとって、重要なポイントだと思います。
    気になった作品(良い意味で)について少し。久保田篤さんの作品ですが、不思議な森の描き方がとても面白いと感じました。また、入賞の大渕花波さんの「おばけのプラクティス#5」は、目の前にある作品を見ての審査でしたから、その先にあるコンセプトなどをもう少し知ることが出来たなら、と残念な気持ちで審査しました。名画と額縁の問題を取り上げていることはわかるのですが、あまりにも情報が足りないため、ポイントが集まらなかったのですが、可能性を感じるものがありました。
    これからのターナーアワードについて、お願いなのですが、ぜひ大学生の応募者が増えて欲しいです。特に、大賞受賞者には副賞として、東京支店にあるターナーギャラリーでの個展が出来る権利もあるようですし、賞金以外の部分での、ご縁が繋がることもあるので、その辺りをきちんと理解した上で、大学生の応募者が増えることを期待したいです。皆さん、引き続き、頑張ってください。
  • O JUN(美術家 東京藝術大学教授)

    大賞作品は筆のゆれうごきが特徴的な印象を与える人物画で、動的な図像空間が絵具で描くドローイングのように描画されていて、束の間の仕草を捉えていて新鮮です。強く迫るものはないけれど、選考が進む中で良質な感性が次第に見えてきた感があります。結構タフなのかな?むしろ未来賞の作家たちの作品の方にイメージや空間構成に特徴的なものが見受けられ目を惹くものが多かった。その分、しのぎ合いで相殺し合ったのか…。さらに今年は高校、専門学校生の作品の方が良かった。グラフィックやイラストレーションが多くなにより描くことに徹底してのめり込んでいると思いました。でも、この高校生たちもやがて美大に進んで数年経てばなんとなく絵みたいなものを描くようになるのだろうか…。たとえば十八歳くらいから二十二、三歳くらいになればその間に見た流行のアーティストや画像検索に引っかかった作品の寄せ集めと編集で絵が描けてしまう。総じて美大生はそういう識別能力や編集能力はかなり高い。別段大学でそういうことは教えていないのだけれど、知らずにインプリントされたイメージがあればあとは引用と剽窃でたちまち絵は描けてしまうわけで、そういう自身と作品を吟味する自己批評性が全然不足している。高校生にしても専門学校生にしてもそれは同じです。ただ彼らは、“此処がよじ登る最初の崖”という初心なココロと捨て身で絵を描いているのですよ。それが絵にナイーフなまでに表れている。美大生たちとはそこが違う。多くのコンペがある現在、自分の絵から傾向と対策で選ぶのは勝手だが、そもそも「自分の絵」とはなんですか?「自分」なんていろいろなものの寄せ集めです。自分の絵とは自分が描いた絵のことではないのですよ。寄せ集めの自分を身に沁みて思い知り、それと引き換えに「交換」したものがたとえば絵だったり彫刻だったりしているものを見たいな。もう一年待ちます。
  • 太田 圭(筑波大学芸術系長)

    私の専門は日本画ですが、日本画を「縦糸」、アクリル画や油彩画、音楽や文学などの他領域からのインスピレーションを「横糸」として、作品という「布」を織りたいと考えていますので、普段はあまり見ることのない表現の作品との出会いを楽しみにしていました。
    審査の結果、変化に富む作品が受賞となりましたが、全員に「ここから、これからに期待します!」というエールを送りたいと思いました。
    その中で一次審査から気になっていたのが、大矢一穂さんの『mirror』(大賞)とVIKIさんの『#石を運ぶしじま』(入選)でした。大矢さんの描いた顔は片目以外が「仮面」で覆われ、上野さんの描いた顔は、画面全体とともに半透明のべールで覆われていました。いずれの作品も、人間の二面性の暗示、他者との関係について表現していると見て取れ、そこに共感するものがありました。またそうじゃっこさんの『アイデンディティー』(入選)は、76個の立方体の各面に様々な絵や模様が描かれており、組み合わせが無限にある立体パズルを見ているようでした。グローバル化と同時に謳われている「グローカル」として、それぞれが置かれた場所で輝く「個」の存在を暗示しているのでしょうか。
    選外だった皆さんへ。通知を受けて、「嘘だろ?」「なんで?」と思ったことと思います。当然のことです。かくいう私は、日本画の全国公募展における連戦連敗の経験者ですので、その気持ちはよくわかります。しかし、「何か」が足りなかったと受け止めてください。将来、「あの時、選外でよかった」と言えるような、今からの奮起に期待しています。
    俳優のチャップリンは「あなたの傑作は?」と尋ねられた時に「The next one(次の作品です)」と答えたといいます。一作ごとにゴールがありますが、それは同時にスタートラインです。私も皆さんに負けないよう描き続けます。なぜなら審査しているはずの審査員は、実は皆さんからも審査されているのですから。